【ヒトシゴト】看護の力で医療の先にある「人生の豊かさ」を守るー「ジニーズランプ株式会社」白石 知之さんー

代表取締役 白石知之さん(42歳)
「もう無理だと思っていた」。
医療や介護が必要になったとき、多くの人がそう口にします。
「外に出ること」「会いたい人に会うこと」「自分らしく過ごすこと」。
命は守られても、人生の楽しみは少しずつ遠ざかっていきます。
救急医療の最前線で20年以上看護師として働いてきた白石知之さんは、
そんな現実に強い違和感を抱いてきた一人です。
命を救う現場に身を置きながらも、「その先の人生」まで支えられているだろうか—。
看護師が同行する「外出支援サービス」を軸に、
“保険外看護”という新たな選択肢を形にしたジニーズランプ株式会社。
その原点には、白石さんの「看護が好き」というまっすぐな想いと、
一人でも多くの人の心を救いたいというホスピタリティ精神がありました。
「食いっぱぐれない」から始まった看護師の道

まず、看護師を目指したきっかけから教えてください。

正直に言うと、「食いっぱぐれないように」という理由が
大きかったです。
就職難の時代だったこともあり、安定した職業に就きたい
という思いでした。
ただ、実際に働く中で自分なりの看護理念が見えてきて。
最初から起業を考えていたわけではないんですが、
結果的にその理念を実現するにはこの道しかないと
思いました。
看護の現場で抱いた違和感からの起業

起業することで実現したかったこととは何でしょうか?

医療や介護が必要になったとき、「生きること」だけでなく
「楽しむこと」まで制限されてしまう現実に、ずっと違和感を持っていました。
医療保険や介護保険で提供されるサービスは、最低限の生活を支えるものです。
その一方で、その人が本当に望んでいる「やりたいことをやる」
「外に出かける」といった、人生の豊かさまではカバーしきれていません。
医療や介護は生活を守ってくれますが、その先にある「感動」や
「心が動く体験」までは支えきれていない。だからこそ、
看護の力で“生きることの質”を支える仕組みをつくりたいと考えました。

「外出は感動の始まり」―― 看護×外出という発想

「看護の力で人生の楽しみまで支えたい」。
そこから「外出支援」を軸としたビジネスの形にたどり着いたんですね。

そうですね。人が「行きたい」「会いたい」
「やりたい」と思う感動体験は、玄関のドアの外にあると
思ったからです。ただ、医療的なケアが必要な方にとって
外出はとてもハードルが高い。
移動中の体調管理や急変のリスクがあるため、
家族だけで連れ出すのは不安が大きいんです。
そこで看護師が同行することで、その不安を取り除き、
「外に出る」という選択肢を
現実的なものにできると考えました。
アプリ「らんぷのナースさん」では、
利用者が看護師を指名し、外出や生活支援を依頼できます。

患者さんご本人はもちろん、ご家族にとってもうれしい
サービスですね。実際の利用シーンにはどんなものがありますか?

今のところ一番多いのは、転院の際の病院から病院への移動です。
一般のタクシーでは対応できないケースが多く、
車いすやストレッチャー、医療的管理が必要な方が多いです。
ただ、それだけではありません。
旅行や買い物など、「その人が行きたい場所に行く」という
使われ方も増えてきています。
ご依頼は病院からのご紹介でいただくケースが多いのですが、
個人でご依頼いただいた方のリピート率は100%です!

リピート率100%!顧客満足度が高いですね。
ほかのサービスとの違いや魅力はどこにあるのでしょうか?

他とのサービスの違いは看護師が同行することで、
移動だけでなく、体調管理や急変対応までできる点です。
単なる移動のサポートであれば、できる事業者は多く存在します。
移動だけではなく、「外出という体験全体」を支えられるのが
私たちの強みですね。
あとは、「ただの移動で終わらせない」という想いもあって、
ちょっとした工夫もしています。サプライズなので
詳細についてここでは触れられないのですが(笑)。

“最期の願い”に寄り添えた、忘れられないできごと

どんなサプライズなのか気になります。
まさに「外出は感動の始まり」を体現されていますね。
印象に残っている利用者のエピソードがあれば、
ぜひ教えてください。

余命いくばくもなく、「もう外出は難しいだろう」と
言われていた患者様がいました。それでもその方には、
「最期は、関東に住む娘さんとお孫さんと一緒に過ごしたい」
という強い願いがありました。看護師として同行し、
その想いを叶える形で、ご家族の待つご自宅までお連れしました。
後日、ご遺族の方から
「最期に父と過ごす時間を持つことができて良かった」と
感謝の言葉をいただきました。
そのできごとは、看護の力で人生の願いに寄り添えることを、
あらためて実感した経験でした。

事業の課題とこれから

こうした経験を重ねる中で、白石さんご自身が感じている、
今後の課題はどこにあると考えていますか?

まずは、サービスを正しく理解してもらうことです。
「保険外看護」という考え方自体が
まだ浸透していないので、丁寧に伝えていく必要があります。
あとは、料金設定や事業の再現性ですね。
想いだけでは広がらないので、質を担保しながら
仕組み化していくことが重要だと思っています。

なるほど。まだまだ進化の途中、ということですね。
そうした課題意識の延長として、
昨年度から自治体との連携にも取り組まれていますよね。
この取り組みには、どんな狙いや背景があるのでしょうか?

はい。山口市の事業の一環として、
自治体と連携した取り組みを進めています。
医療や介護が必要になる前から、高齢者が地域とつながり、
健康的に過ごせる環境をつくりたいという思いが
背景にあります。
現在は、Megribaのシェアキッチンで
毎月第3火曜日に食事の提供を行っています。
地元農家の方々にご協力いただいた野菜を使い、
豚汁とおにぎりを中心とした定食を提供しています。
この事業は2025年度からの5か年計画で、
内容は事業者が自由に見直せる仕組みです。
今後は食事提供に限らず、高齢者の健康づくりや
社会参加を支える取り組みを模索しながら、
看護師としてのスキルアップやサービスの
質の向上にもつなげていきたいと考えています。
好きだから、続いている――
仕事を楽しむというマインド

看護師人生のスタートは「食いっぱぐれないため」
だったそうですが、気づけば20年以上続いています。
白石さんにとって、
看護師という仕事はどんな存在なのでしょうか?

看護師という仕事が、やっぱり好きなんですよね。
そして、誇りを持てる仕事だと思っています。
医師が「治療して治す」役割だとすれば、看護師は、
医療を受けざるを得ないような非日常的な状況の中で、
いかに日常を取り戻すかを支える存在だと思っています。
病気をコントロールしながら、
その人がその人らしい生活を送れるように寄り添う。
それが看護師の役割です。医療の現場にいながら、
生活や人生に一番近いところで関われる。
看護師は、日常を提供するスペシャリストだと思っています。
利用者さんの人生を支えることが、
結果的に自分自身の人生も豊かにしてくれる。
だからこそ、これだけ長く続けてこられたのだと思います。
あとは、ちょっとおじさんっぽい話かもしれませんが(笑)
どんな仕事でも楽しめるかどうかは
マインド次第だと思っていて。
それは誰にでも身につけられる技術だと思います。
最後に――

“仕事を楽しむマインドは誰にでも身につけられる技術”
というお話、とても印象的でした。では最後に、
これから白石さんが目指していきたい未来や、
大切にしていきたいことを教えてください。

「らんぷのナースさん」をさらに広げ、より多くの方に
看護の力を届けていきたいです。
病気や介護が必要になっても、
最期までその人らしく生きられる社会を、
山口からつくっていきたいと考えています。
起業したことで、組織に所属しているだけでは得られなかった
知見や考え方に触れることができ、
世界が大きく広がったと感じています。
何より、勤務先の仲間やMegribaのスタッフの方々をはじめ、
本当に多くの人に支えられ、助けてもらってきました。
そうした経験を通して芽生えた感謝の気持ちは、
これまで以上に深まり、
今の自分にとって何よりの財産だと思っています。

こちらこそ、白石さんの理想を一緒に追いかけさせて
いただけたことを、とてもうれしく思っています。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
今回は、看護の在り方から、
仕事を続けていくためのマインドまで、
幅広くお話しいただき、ありがとうございました。

ありがとうございました。

(編集後記)
何よりも「看護が好き」だと語る白石さん。
経営に携わる立場になった今も、救急センターで週に2回ほど現場に立ち、
看護師としての仕事を続けています。
医療の最前線で、人に寄り添い続けたい。看護の可能性を広げながらも、
原点である現場を大切にし続ける姿勢に、
白石さんの看護への向き合い方が表れているように感じました。

ジニーズランプ株式会社
代表取締役 白石 知之さん
山口県山陽小野田市出身、宇部市在住。高校卒業後、岡山県の専門学校で看護を学び、山口大学医学部附属病院に入職。整形外科勤務を経て、ドクターヘリのフライトナースやDMATロジスティクスとして救急・災害医療に従事。
2024年6月にジニーズランプ株式会社を創業。
看護師と患者をつなぐアプリ「らんぷのナースさん」を展開している。
(※取材時:2026年6月)


