Megribaメンターインタビュー vol.1 イム・ソニョンさん
【Megribaメンターに聞いてみよう!vol.1】
“大学生×アントレプレナーシップ=将来の選択肢が広がる?!”

今回は、様々な大学でアントレプレナーシップ教育に関わってこられたイム・ソニョン氏にアントレプレナーシップ教育について、お話をおききしたいと思います!
早速ですが、イムさんがアントレプレナーシップ教育へ関わるきっかけを教えてくださいますか?
私にとってのアントレプレナーシップの原点は私自身が受けてきた教育が背景にあると思います。私は幼稚園から大学まで、先生が何を言おうとしているのか、何を求められ、どう行動すべきかをうまく理解できず、いつも「何をしても上手にできない」という劣等感を感じながら社会人になりました。
え、そうなんですか?!イムさんは韓国でも最難関大学の1つと言われるソウル大学出身とお聞きしていたので、きっと子供のころから周りの誰もが認める優等生だったに違いないと想像していたのですが・・・。
実際にソウル大学の学生の中にも劣等感が大きい人は多いです。あの学部よりは偏差値が低いとか,同じ学部の他の学生より背が低いとかニキビがあるとか(韓国は身長へのこだわりがすごく、私、背もとても低いです(苦笑))。
ものすごく優秀なソウル大の学生でも、更に容姿がコンプレックスになるのですか?!
今思うと、私自身が学校教育の中で感じた劣等感が、アントレプレナー教育への動機の原点だと思います。毎朝決まった時間に起きて、決まったスケジュールで行動し、長時間決められたカリキュラムの授業を受け、いろいろな法則や規則をただ機械的に覚えて守り、先生の指示を正確に理解し、忍耐強くコツコツと勉強をする。もちろん、社会の一員として生きるための基本を学ぶという事も大切な事ではあるのですが、一方で、それ以外の選択肢やできない人が別の才能を見つけたり活かしたりする機会が、私の時代の教育にはなかったことが残念に思います。
確かに、私は今40代で日本の教育を受けてきましたが、決まった時間に決まった行動をして・・・、というのは私が経験した学校教育と同じです。もっと優秀でいたい、もっと認めてもらいたい自分と、そうなれない自分で劣等感の塊でした。

これまでの学校教育では褒められたり認められるための範囲や枠がとても狭く、その枠にはまらない人はいつの間にか劣等感やコンプレックスができてしまっている、そんな状態を変えたい思いが私自身のアントレプレナーシップ教育への原点です。
もちろん、コンプレックスが頑張る原動力になることもあります。でも一方で、「何をしてもどうせ無駄だ」と感じてしまい、無気力や無価値感の中に落ちてしまうことも多いです。
日本では不登校や引きこもりになってしまう学生もいて、学校での挫折経験や自信喪失も理由の1つだと聞いたことがあります。
実際、韓国や日本では若者の自死率が非常に高く、このような「枠に合わなければ価値がない」といった風潮が、その背景にあると感じています。
私がアントレプレナーシップ教育に込めている願いのひとつは、まだまだこれからの二十歳前後の若者たちが、“生きること”そのものをもっと楽しめるようになること。誰かと同じでなくていい、自分の価値を自分で見つけて、信じて、育てていく。そんな教育を届けたいんです。
“誰かと同じでなくていい” という言葉、大人の私もなんだかホッとする言葉です。実際には、アントレプレナーシップ教育ではどのようなことを学ぶのですか?
アントレプレナーシップ教育とは、「起業意思の有無に関わらず、 困難や変化に対し、与えられた環境のみならず、自ら枠を超えて行動を起こし新たな価値を生み出していく力(アントレプレナーシップ)を育む」とも定義されていて(※1)、簡単に言うと、「好きや違和感を出発点に、自ら学び考え動ける力を養う」事であるとも私は思います。


「自ら考え学ぶ力」って実際にどんな事なのですか?
考える過程は、与えられた正解を当てにいくのではなく、自分なりに問いを立て、観察して、予想して、試して、修正するの繰り返しであり、無数の修正中の試しが「失敗」とういう姿で現れます。そして自分ならではの答えを“試行と思考”で導き出しながら、その時その場で、うまくいった途中の成果が「成功」として現れます。
“試行と思考”で考える力を育む9の過程として、① 思考力 ② 行動力 ③ 自己効力感 ④ リーダーシップ ⑤ チームワーク ⑥ 問題発見力 ⑦ 伝える力 ⑧ 発想力 ⑨ 情報収集分析力 の9つがあり、現代の社会人にとっても必要な能力とマインドでもあります。
正解か不正解か?ではなく、自分ならではの答えを“試行と思考”で導き出す!なんだかちょっと複雑でもあり自由でワクワクする響きでもありますね(笑)

そうなんです(笑)。最初は少し戸惑うかもしれませんが、実はその“ワクワク”こそがすごく大事で。
これまでの教育では「正しい答えを出す」ことがゴールのように扱われてきましたが、アントレプレナーシップでは「まだ世の中にない、自分ならではの答えを見つけていく」ことこそが醍醐味なんです。
たとえば、考えても答えが出ないときって、自分の中の感覚や違和感に目を向けて、観察して、やってみて、うまくいかないからまたやり直して…という繰り返しになりますよね。そのプロセスの中で、自分なりの「見方」や「選び方」が育っていきます。それが、人生や仕事でも大きな力になるんです。
確かに! 社会人歴の長い私にとっても、思考力、自己効力感、伝える力など足りないと感じますが、学校教育で十分に学んだ記憶もありません(汗)。
すごく共感します。実はそういう声、本当に多いんですよ。これまでの教育では、知識を効率よく覚えることには時間が割かれてきましたが、「どう考えるか」や「自分で信じて動く力」を育てる場は、意外と少なかったんですよね。
でもアントレプレナーシップ教育では、「自分の力で考え、判断し、行動してみる」という経験そのものを大切にしています。そして、その経験を通して「自分にもできた」という実感=自己効力感が育ちます。これは大人になってからでも、きっと育てていける力だと私は信じています。

大人になってからでも育んでいける力、と聞いて安心しました!(笑)
次にお聞きしたいのが、大学でのプロジェクトのご経験豊富なイムさんが考える、“大学生×アントレプレナーシップ”という事で、専門分野で学んだり研究をする大学生や大学院生にとっての「アントレプレナーシップ」についてどのようなメリットや利点があると考えられますか?
そうですね、大学生と大学院生ではアントレプレナーシップとの関わり方や得られる意味合いが少し違うと思っています。大学生にとっては、アントレプレナーシップは「自分探し」と「試す時間」を豊かにしてくれるものです。
私も今思い返すと大学生の時間は「自分探し」と「試す時間」だった気がします。
大学の4年間は、まだ「これが自分のやりたいことだ」と言い切れない人も多いと思います。でも、それでいいんです。むしろ「何をしたいかわからない」なら、いろんなことに手を出して、失敗したり、飽きたりしながら、自分の好き・嫌いを知ることがとても大切です。
アントレプレナーシップの学びは、自分の内側と向き合うことから始まります。
「自分は何ができるのか」「どんな時にワクワクするのか」「どんなことには抵抗を感じるのか」。そんな小さな問いの積み重ねが、自分なりの“行動の軸”を育てていきます。
もしやりたいことがあるなら、試せる時間。やりたいことがわからないなら、探す時間。大学時代はその両方を自由に使っていい時期なんです。
では、大学院生にとっての「アントレプレナーシップ」はいかがですか?
大学院生にとってのアントレプレナーシップは、「専門性を社会に橋渡しする力」を育てるものだと思います。
自分の研究や専門が、どのように社会とつながるのか。その問いを持つことが、自分の探究をより意味あるものに変えてくれます。
大学院で培った知見を、誰のどんな課題解決に役立てられるかを考えるプロセスは、まさに「社会と自分をつなぐ」アントレプレナー的視点です。自分の知識をどのように届け、どのような形で新しい価値として世の中に還元できるのか。そんな視点を持つことは、研究者であっても企業人であっても、未来の選択肢を広げてくれるはずです。

ご自身が通っている学校でアントレプレナーシップのプログラムがあれば理想だと思うのですが、そこにはない場合、個人で学ぶ方法などあるのでしょうか? 個人でアントレプレナーシップを学ぶことは難しいですか?
個人でもアントレプレナーシップを学ぶことは可能ですし、とても意味のある挑戦です。まずは、身近な「やってみたい」を形にしてみること。 たとえば、アルバイト先や地域の活動の中で「もっとこうしたら良くなるのに」と思ったことを実際に提案してみたり、小さなプロジェクトを立ち上げてみたり。正解を探すのではなく、「動きながら考える」ことがとても大切です。ただ、「一人でやろうとすると挫折しやすい」というのも正直なところです。
身近な「やってみたい」を形にしてみる、そして正解を探すのではなく、「動いて考えること」、なんだか身近に感じてきました(笑)新しい事を学び継続するには、仲間がいたら心強いですね。Megribaでもアントレプレナーシップを学べるセミナーやイベントを企画していきますので、一人ではなかなか・・・・。という方にぜひご参加いただきたいです。
最近は、民間企業や自治体が提供するアントレプレナーシップ関連のプログラムやイベントも豊富にあります。実践型のイベントも多数あり、そこに飛び込んでみることで、仲間やメンターに出会う機会も得られます。知識に関しては、書籍やYouTubeチャンネルなどもとても有効な学びのリソースです。

アントレプレナーシップを初めて学ぶ方に、イムさんおすすめの書籍等あれば教えてください。
私は日本的なアントレプレナーシップは京セラの創始者稲盛和夫氏とパナソニックの創始者の松下幸之助氏だと思っています。事業をする上での美学が詰まっていると思っています。彼らの書籍も多く、その中でタイトルに惹かれるものから読んでみて欲しいです。大学生にも社会人の方にもおすすめですよ。
さらに、ご自身の選択として起業に興味があるけれど、何からすればよいか知りたい方にお勧めの本は,「起業0年目の教科書」です。スタートアップでもスモールビジネスでも,結局は日々の日常の行動の積み上げから現れることで、いま何からしてみるかが具体的にイメージつきます。スタートアップを目指すなら、「Hard Things」という本がおすすめです。
それ以外にもいろんな書籍がでていますので、ご自分の今の課題と関心に合った本をどんど探してみてて欲しいです。よくどうすればよいかわからないと悩みながら過ごしている方いますが,どんな悩みでも大体は本で解決につながるヒントを得られると思います。
動画で見たい方はYouTubeの「北の達人チャンネル」がおすすめです。組織づくり,マーケティング,思考法などビジネスの多方面での「仕事ができる」という視点でとてもヒントになります。あとは、キングコングの西野さんのチャネル。起業って新しいこと価値を考えて行動し続ける必要があると思うのですが,その視点が分かりますね。
沢山のおすすめ、ありがとうございます! 本や動画で学べるのなら、はじめの一歩も踏み出しやすいですね! イムさん、本日は貴重なお話をありがとうございました!【インタビュアー:黒澤直子(Megribaインキュベーションマネージャー)】

<<<Megribaより>>> Megribaではイムさんの個別相談会も開催中です。イムさんとお話しして、自分に合ったアントレプレナーシップを直接アドバイスしてもらいたい、大学生、大学院生の皆様、ぜひ、ご活用ください!また、イムさんはアントレプレナーシップの他にもビジネスアイディアのブラッシュアップや、地域性を活かした事業をしてみたい女性、ソーシャルビジネスなどの知見もお持ちですので、そのようなご相談も気軽にMegribaの個別相談会でイムさんにご相談くださいね!


イム・ソニョン(林 宣伶)氏
大阪公立大学 特任助教(アントレプレナーシップ教育、システム思考)
株式会社ツクリエ アントレプレナーシップ教育担当|大阪公立大学 特任助教(アントレプレナーシップ教育、システム思考)
2003年ソウル大学(韓国伝統音楽専攻)卒業、2020年慶應義塾大学大学院 SDM研究科修士修了。伝統音楽教師、大韓航空グランドスタッフ、千葉大学先進的マルチキャリア博士人材養成プログラム事務職、信州大学助教・UniversityResearchAdministratorを経て現職。現在、大阪公立大学でアントレプレナーシップ教育担当として大学生向けにプロジェクト型ラーニングプログラムを企画実施するほか、株式会社ツクリエでアントレプレナーシップ教育・研修プログラムの設計を行う。前職の信州大学では、国際学術推進制度策定、大型産学官連携研究プロジェクト、異分野研究ワークショップ、産学官コーディネーター向けワークショップ設計、高校生向けシステムデザイン思考を用いた課題探求型教育に従事。その他、NPO法人Sharing Caring Culture理事、knots associates株式会社システムデザイン/価値創出研修支援スタッフ、カスタマイズした教育研修プログラムを提供する「Imusha」代表。